ノークレームノーリターンとは|中古車の現状渡しは法律上どこまで有効か

中古車の広告や注文書で見かける「ノークレームノーリターン」は、売ったあとに不具合の苦情(クレーム)も返品(リターン)も受け付けない、という意味の取り決めです。似た言葉に「現状渡し」「現状販売」があります。ただ、中古車販売店が個人のお客様に売る場合、この取り決めをそのまま押し通せません。民法の契約不適合責任と、消費者契約法第8条があるためです。一方、個人どうしの売買では特約がある程度効きます。この記事では、言葉の意味、法律上の扱い、販売店と個人売買の違い、販売店がお客様にどう説明すればよいかを、e-Gov法令検索の条文と自動車公正取引協議会の資料で確かめながら整理します。

この記事で確認した一次情報

ノークレームノーリターンとは(意味と現状渡しとの違い)

ノークレームノーリターンとは、売買のあとに買主が不具合を理由に苦情を言わず、返品もしないことを、売主と買主があらかじめ約束する取り決めです。ネットオークションなどの個人間取引でよく使われる言葉です。現状渡し(現状販売)は、整備や修理をせずに今の状態のまま引き渡すという意味で、もともとは引渡しの方法を表す言葉です。自動車公正取引協議会の相談Q&Aは、現状販売を「保証なし・定期点検整備なし」の販売として扱っています。2つは混同されがちですが、現状渡しは「直さずに渡す」、ノークレームノーリターンは「あとから責任を問わない」という約束で、意味の重さが違います。民法第572条は、こうした責任を負わない特約そのものは認めつつ、売主が知りながら告げなかった事実の責任は免れないと定めています。

言葉 意味 中古車での使われ方
ノークレームノーリターン 不具合の苦情も返品も受け付けない約束 個人売買、ネットオークション、業者向けの卸売
現状渡し、現状販売 整備や修理をせず、今の状態で引き渡す 低価格車、整備前の在庫、業者間取引
保証なし 販売店が独自の無償修理の約束をしない 広告やプライスボードの「保証の有無」欄

「保証なし」の意味と注意点は中古車の「保証なし」はなぜ危険?で扱っています。ここからは、ノークレームノーリターンの約束が法律の上でどこまで効くかを見ていきます。

中古車のノークレームノーリターンと民法の契約不適合責任

中古車の売主は、引き渡した車が契約の内容に合っていないとき、民法の契約不適合責任を負います。民法第562条は、目的物が種類、品質、数量について契約の内容に適合しないとき、買主が修補などの履行の追完を請求できると定めています。追完がなければ第563条で代金の減額を、第564条で損害賠償の請求や契約の解除を求められます。期間は第566条で、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知する必要があります。この責任は特約で軽くしたりなくしたりできるのが原則で、ノークレームノーリターンもその特約の一種です。ただし第572条により、売主が知っていながら告げなかった不具合は、特約があっても責任を免れません。たとえば、エンジンの異音を知っていた売主が黙って「ノークレームノーリターン」で売った場合、買主は修理代や解除を求められます。

買主が求められること 根拠の条文 中古車での例
修理(履行の追完) 民法第562条 説明のなかったミッションの不具合を直してもらう
代金の減額 民法第563条 修理されないとき、不具合の程度に応じて値引きを求める
損害賠償、契約の解除 民法第564条 修理できず走れない車の契約をやめる
期間の制限 民法第566条 不具合を知ってから1年以内に売主へ通知する

中古車の場合、何が「契約の内容に適合しない」かは、年式や走行距離、価格、説明された状態で変わります。走行10万kmを超えた車のゴム部品の劣化のように、中古車として当然予想される通常の使用損耗は、不適合にあたらないと考えられています。保証との関係は中古車の契約不適合責任と保証の関係で詳しく解説しています。

消費者契約法第8条と販売店のノークレームノーリターン

中古車販売店などの事業者が個人のお客様に車を売る契約は、消費者契約法の「消費者契約」にあたります(第2条)。その消費者契約法第8条第1項第1号は、事業者の債務不履行によって消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項を無効と定めています。不適合な車を引き渡すことは債務不履行の一種なので、「納車後の故障には一切応じない」というノークレームノーリターンの条項は、損害賠償の責任を全部免除する部分について効力を持ちません。第8条の2は、債務不履行で生じた消費者の解除権を放棄させる条項も無効としています。さらに第10条は、法律の任意規定に比べて消費者の権利を制限し、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項を無効としています。販売店が注文書に「ノークレームノーリターン」と印刷しても、お客様の請求を止める根拠にはならないと考えてください。

例外もあります。第8条第2項は、販売店が代わりに修理(履行の追完)や代金の減額の責任を負う場合や、保証会社など他の事業者が修理や損害賠償の責任を負う契約がある場合には、損害賠償の免除条項を第1項で無効にしない、と定めています。つまり「損害賠償は負わないが、不具合は無償で修理する」という形の約束は認められる余地があります。中古車保証を付けて保証書で修理の範囲を示すことは、この点でも意味を持ちます。

自動車公正取引協議会の相談Q&A(Q1、Q2)は、現状販売で買った車でも、納車直後のエンジン故障が通常の使用損耗といえず売買のときに分からなかったものなら、販売店に無償修理を求められると回答しています。販売店が故障を知らなかった場合も責任は免れないとしています。Q&Aは改正前の「瑕疵担保責任」の用語で書かれており、現在の民法では第562条以下がこれにあたります。

個人売買のノークレームノーリターン(事業者が売る場合との違い)

個人どうしの中古車の売買には消費者契約法が適用されないため、ノークレームノーリターンの特約は原則として有効です。消費者契約法第2条は、消費者を「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」を除く個人と定め、消費者契約を消費者と事業者の間の契約としています。個人が自家用車を知人やネットオークションで売る場合は、売主も買主も消費者なので、第8条による無効の対象になりません。それでも民法第572条は適用されるため、売主が知っていた事故歴や故障を告げずに売ったときは、特約があっても責任を負います。業者どうしの売買では、商法第526条により、買主は受け取った車を遅滞なく検査し、不適合を見つけたらすぐに通知しなければならず、すぐに見つけられない不適合も6か月以内に見つけた場合に限られます。誰が誰に売るかで、ノークレームノーリターンの効き方は大きく変わります。

売買の組み合わせ ノークレームノーリターンの効き方 主な条文
販売店が個人に売る 損害賠償の全部免除と解除権の放棄の条項は無効。知っていて告げない不具合も責任あり 消費者契約法第8条、第8条の2、第10条、民法第572条
個人が個人に売る 特約は原則有効。ただし知っていて告げなかった不具合は責任あり 民法第572条、第566条
業者が業者に売る 特約は原則有効。買主には受領後の検査と速やかな通知の義務がある 商法第526条、民法第572条

個人売買で車を買うと、販売店の保証も、販売店に修理を求める窓口もありません。不具合が出たときに直接やり取りする相手は売主本人です。個人売買の車に後から保証を付けられるかは、中古車保証は後付けできる?を参考にしてください。

現状渡しで売るときの販売店の正しい説明の仕方

販売店が現状渡しで中古車を売るときに必要なのは、「何も保証しない」と言うことより、分かっている不具合と保証の有無を具体的に書面で伝えることです。民法第572条の責任は「知りながら告げなかった事実」にかかるので、仕入れ時の検査や点検で見つけた不具合を注文書に書いておけば、その不具合はお客様が承知して買ったものになります。自動車公正競争規約の施行規則第11条は、保証の有無を表示し、保証がない車は「保証なし」と表示するよう定めています。国民生活センターのリーフレット(2022年3月)も、価格、保証の有無、定期点検整備の実施の有無、走行距離、修復歴の有無が広告やプライスボードに表示されているかを確認するよう消費者に呼びかけています。お客様が見る場所と、署名する書類の両方に同じ内容を書くことが、トラブルを減らす近道です。

  1. 1. 分かっている不具合を書き出す

    オイル漏れ、異音、警告灯、エアコンの効き、修復歴など、仕入れ時や点検で確認したことを注文書の特記事項に書きます。口頭だけの説明は後で確かめられません。

  2. 2. 保証の有無と点検整備の有無を表示する

    プライスボードと広告に「保証なし」「定期点検整備なし」を表示します。有料で保証を付けられるなら、その旨も表示します。

  3. 3. 「ノークレームノーリターン」の一文に頼らない

    個人のお客様への販売では、損害賠償を全部免除する条項は消費者契約法第8条で無効です。代わりに、書き出した不具合は承知のうえで購入する、という確認を取ります。

  4. 4. 納車時に一緒に確認する

    エンジンをかけ、可能なら試乗して状態を見てもらいます。国民生活センターのリーフレットも契約前の始動と試乗を勧めています。

  5. 5. 保証を選べるようにする

    現状渡しの価格のままでも、希望するお客様には保証会社の保証を有料で付けられるようにしておくと、納車後の故障の相談先を保証会社に回せます。

保証書の書き方と「保証付き」表示のルールは中古車の保証書と「保証付き」表示のルールにまとめています。納車後のクレームへの対応手順は中古車販売のトラブル・クレームを保証で防ぐ方法で解説しています。

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ノークレームノーリターンに関するよくある質問

販売店で「ノークレームノーリターン」と書かれた中古車を買いました。故障しても何も言えませんか?
言えます。販売店が個人に売る契約には消費者契約法が適用され、第8条第1項第1号により損害賠償の責任を全部免除する条項は無効です。説明のなかった不具合が通常の使用損耗とはいえないものなら、民法第562条以下にもとづいて修理や代金の減額、場合によっては解除を求められます。不具合を知ってから1年以内に販売店へ通知してください。
現状渡しとノークレームノーリターンは同じ意味ですか?
同じではありません。現状渡しは整備や修理をせずに今の状態で引き渡すことで、ノークレームノーリターンは引渡し後に苦情や返品を受け付けない約束です。自動車公正取引協議会の相談Q&Aは、現状販売で買った車でも、売買のときに分からなかった通常の使用損耗といえない故障なら販売店に無償修理を求められると回答しています。
個人売買のノークレームノーリターンは有効ですか?
個人どうしの売買には消費者契約法が適用されないため、特約は原則として有効です。ただし民法第572条により、売主が知りながら告げなかった不具合や事故歴については、特約があっても責任を負います。買う側は、売主に分かっている不具合を書面で出してもらうと、後で確かめやすくなります。
業者オークションや業者間の取引でもノークレームノーリターンは使えますか?
業者どうしの売買は消費者契約ではないので、特約は原則として有効です。また商法第526条により、買主は受け取った車を遅滞なく検査し、不適合を見つけたら直ちに売主へ通知する義務があり、すぐに見つけられない不適合も6か月以内に見つけたものに限られます。オークション会場の規約がある場合は、その規約のクレーム期間に従います。
販売店は現状渡しの車をどう売ればトラブルを防げますか?
分かっている不具合を注文書に書き、プライスボードと広告に「保証なし」と定期点検整備の有無を表示し、納車時に状態を一緒に確認します。希望するお客様には有料で保証を付けられるようにしておくと、納車後の故障を保証会社の受付に回せます。

参考にした一次情報

この記事は次の一次情報をもとに作成しています(2026年10月24日確認)。条文はe-Gov法令検索の現行法令によります。

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